電話 AI を導入しても、ほとんどの場合、電話番号を変える必要はなく、既存の PBX(電話交換機)を撤去する必要もありません。 いちばん軽い方法は、通信事業者の「転送設定」を変えるだけ。営業時間外と話中あふれの着信を AI が受け、PBX には一切触れません。従来型のアナログ・デジタル PBX なら VoIP ゲートウェイを 1 台足すだけで、特定の内線や時間帯を AI に任せられます。IP-PBX ならほぼソフトウェア設定のみで、着信を AI の SIP アドレスに転送すれば完了です。新しい番号が本当に必要になるのは、「AI 専用回線を開設したい」「AI と人の着信を分けて集計したい」といった能動的な選択をした場合だけで、それも「番号を 1 つ増やす」のであって「今の番号を捨てる」わけではありません。
これは経営者が電話 AI を検討するとき、最初に、そして最も現実的に出てくる質問です。PBX は 10 年使っていて、電話番号は名刺、看板、Google ビジネスプロフィール、すべての契約書に載っている。AI を入れるなら全部入れ替えなのか? この記事では「今どの電話システムを使っているか」別に、番号を変えるべきか、何を追加するか、どう接続するか、難易度はどれくらいかを整理します。読み終えたら、そのまま通信事業者・PBX 業者・情シス担当との打ち合わせに使えます。
結論から:現状 4 パターン、それぞれ何を動かすか
まず表で自分の行を見つけて、該当する章を読んでください。
| 現状 | 番号変更 | 追加する機器 | 接続方法 | 導入難易度 | 向いている通話量 |
|---|---|---|---|---|---|
| 従来型アナログ/デジタル PBX(固定回線収容) | 不要 | VoIP ゲートウェイ 1 台(FXO または FXS ポート) | ゲートウェイがアナログ信号を SIP に変換して AI へ | 中。PBX 業者の現地作業が半日〜1 日 | 1 日数十〜数百件 |
| IP-PBX(Asterisk、FreePBX、各社の IP 交換機) | 不要 | 通常は不要 | 外部 SIP URI への転送、または SIP トランク接続 | 低〜中。設定のみ | 1 日数百件以上でも可 |
| 固定電話・携帯のみ、PBX なし | 不要 | 不要 | 通信事業者の転送設定(無条件/話中/無応答) | 最低。通常は即日 | 1 日数十件 |
| クラウド PBX | 不要 | 不要 | 管理画面で外部転送または SIP 接続を設定 | 低 | プランの同時通話数次第 |
4 パターンに共通するのは、番号はそのまま、内線もそのまま、AI は横に置くということ。実際に変えるのはたった 1 つのルール、「着信したら誰が先に出て、出られなければ誰に回すか」だけです。
いちばん軽い方法:転送設定だけを変え、PBX には触らない
「営業時間外に誰も出られない」「ピーク時に話中になる」をまず解決したいだけなら、PBX を触る必要はまったくありません。通信事業者には元々着信転送の機能があり、転送先を AI の番号にするだけです。
この方法の利点は、即日で稼働でき、いつでも止められること。導入に失敗したときのコストはほぼゼロです。注意点は 2 つ。
1. 転送は通信事業者の付加サービスで、多くのプランは別途申し込みが必要です。名称も事業者によって少しずつ違います。
2. 転送した先の通話区間は、通常、転送を設定した側が負担します。料金はプランや他網への転送かどうかで変わるので、通話量が多い会社は稼働前に事業者に見積もってもらってください。
従来型 PBX:VoIP ゲートウェイを 1 台足すだけ
従来型 PBX はアナログ信号で話し、電話 AI は SIP(インターネット電話のプロトコル)で話します。両者の間に橋が必要で、それが VoIP ゲートウェイです。片側に電話線、片側に LAN ケーブルを挿す小さな箱で、アナログ信号を SIP パケットに変換して AI に渡します(出典)。
ゲートウェイには FXS と FXO の 2 種類のポートがあります。平たく言うと:
実務でよく使う配線は 2 通りです。
パターン 1:AI を内線の 1 つにして、特定の内線や時間帯を任せる。 ゲートウェイの FXO ポートを空いている内線ポートに接続し、PBX 側で「代表内線が 3 回鳴って出なければ 199 へ」または「夜間モードでは外線を直接 199 へ」と設定します。日中は今までどおり、時間外は AI。内線同士の通話、代理応答、グループ着信はすべてそのままです。
パターン 2:AI が PBX の手前で先に出る。 固定回線をまずゲートウェイの FXO ポートに入れ、AI が応答して用件を判別し、人が必要なら FXS ポート経由で PBX の外線ポートに戻して内線に振り分けます。AI に発信者番号がそのまま届くのが利点ですが、建物全体の着信経路を変えることになるので、PBX 業者と一緒に進めてください。
どちらの場合も、PBX 内部の内線ロジックは一切変わりません。 PBX から見れば「電話機が 1 台増えた」か「回線が 1 本増えた」だけです。必要なのは空きポート、ゲートウェイまでの LAN ケーブル、そして半日の工事時間です。
IP-PBX:ほぼ設定だけ、機器の購入は不要なことが多い
すでに IP-PBX(Asterisk、FreePBX、各社の IP 交換機)を使っているなら、すでに SIP の世界にいます。確認するのは 1 点、「外部 SIP URI への転送」または SIP トランク接続に対応しているかだけです。SIP URI はメールアドレスのような形式で、たとえば sip:agent@example.com。後半は IP アドレスでもドメイン名でも構いません(出典)。対応していれば、AI の SIP URI を転送先に設定するか、AI プラットフォームをトランクとして追加すれば完了です。
PBX 業者や情シス担当と話すときは、次の 3 つの設定を詰めておくと、たいてい一度で疎通します。
1. SIP 登録か、IP 認証か
接続方式は 2 つ。登録方式は PBX が ID とパスワードで AI 側に登録するもので、固定 IP がないオフィスでも使えます。IP 認証は双方が相手の固定 IP をホワイトリストに入れるもので、認証情報が不要で安定しますが、自社側に固定 IP が必要です。まず AI ベンダーがどちらに対応しているかを聞き、それから自社のネットワーク環境を確認してください。
2. コーデックは G.711 か Opus か
双方に共通のコーデックが最低 1 つないと、「つながったのに音が出ない」状態になります。G.711 は最も汎用的で、ほぼすべての PBX が対応しています。Opus は音質が良く帯域も節約できますが、対応していない機器もあります。G.711 を優先リストの先頭に、Opus を予備にするのが無難です。
3. NAT・ファイアウォールで開けるポート
SIP のシグナリングは通常 5060(UDP または TCP)か 5061(TLS)、音声の RTP は UDP のポート範囲を使い、範囲はプラットフォームごとに違うので AI ベンダーから一覧をもらってください。さらに、情シスにルーターの SIP ALG を無効化してもらいましょう。名前は親切そうですが、「片方向しか聞こえない」問題の最も一般的な原因です。
SIP トランクで直接収容:通話量が多く、同時通話が多いときに
SIP トランクは、物理的な電話回線をインターネット上の仮想回線に置き換えるもので、SIP 事業者が通話を公衆電話網に接続します(出典)。電話 AI にとっての意味は、番号が AI プラットフォームや IP-PBX に直接乗り、途中でアナログ変換が入らないということです。
VoIP ゲートウェイとの違いは次のとおりです。
| 実体 | アナログ/デジタル信号を SIP に変換するハードウェア | 通信事業者や SIP 事業者が提供するネットワーク回線 |
|---|---|---|
| 既存 PBX | 残す | IP-PBX は残せる。アナログ PBX は通常引退 |
| 同時通話数 | ポート数で上限(4、8、16 ポートが一般的) | 契約の同時通話数次第。増設は契約変更で済む |
| 番号 | 変わらない | 番号ポータビリティで移すか、新規取得 |
| 主なコスト | 機器の初期費用と設置 | 月額と同時通話数 |
| 向いている会社 | 通話量が中小規模で PBX を動かしたくない | 通話量が多い、多拠点、すでに IP 化を進めている |
SIP トランクにするかどうかを決めるのは、1 日の件数ではなく同時通話数です。Pathors の見積もりモデルを経験値として挙げると、1 回線が実際にさばけるのは月およそ 10,000 分。通話が少数のピーク時間帯に集中するため、回線の稼働率は 2 割強にとどまります。月間の通話分数から 4 回線以上が必要になったら、ゲートウェイのポート数と増設コストは見合わなくなり、SIP トランクが正解になります。算出方法は 電話 AI は同時に何件受けられる? を参照してください。
本当に新しい番号が必要になるのはいつか、番号ポータビリティの扱い
先に整理しておくと、以下のケースで必要なのは「番号を 1 つ増やす」ことで、今の番号はそのまま使い続けます。
番号ポータビリティが関係するのは、既存の番号を別の事業者に持ち出す場合、たとえば物理回線から SIP トランク事業者へ移すときだけです。台湾では固定電話の番号ポータビリティが 2005 年 10 月 13 日から提供されており、2025 年 8 月末までに累計およそ 6 万件強の固定番号が移行されています(NCC)。固定電話の移行は「同一設置場所」が原則(NCC 規則)で、同じ住所なら SIP 事業者に番号を持ち出せますが、オフィス移転と同時には使えません。日本を含む他の市場の読者は、条件・所要期間・地域制限が異なるので、自国の規制当局や通信事業者のルールを確認してください。
実務上の注意は 3 つ。手続きは移行先の事業者が代行する、切替時に短い不通時間があるので閑散時間帯を選ぶ、旧契約の縛りや違約金を先に確認する、です。
ベンダーと話す前に用意しておく情報
このリストを埋めてから AI ベンダーに相談すると、少なくとも 1 往復は減らせます。
よくある落とし穴
ゲートウェイのポートが足りない。 1 ポート=同時通話 1 本。2 ポートのゲートウェイでは 3 本目の着信が入りません。ピーク同時通話数でポート数を決め、1〜2 ポートの余裕を持たせてください。
ファイアウォールが SIP を遮断する。 症状は「呼び出しは鳴るのに出ると無音」「片方しか聞こえない」。9 割は SIP ALG が有効のままか、RTP のポート範囲が閉じています。稼働前に必ず双方向の通話テストを。項目は 電話 AI 稼働前のテストコール チェックリスト にまとめています。
発信者番号が自社の番号になる。 通信事業者の転送を使うと、AI に届く発信者番号が顧客ではなく自社の番号になることがよくあります。その結果、AI が番号で CRM を照合できず、通話記録に折り返し先が残りません。対策は 3 つ。IP-PBX や SIP トランク接続で元の発信者番号を保持するよう依頼する、「AI が PBX の手前で出る」構成に変える、少なくとも会話の中で AI に折り返し先番号を確認させる。
録音の告知をしていない。 電話 AI はほぼすべての通話を録音・文字起こしするため、個人情報保護上の告知義務が生じます。着信時に録音ガイダンスを流してください。発信側にはさらにルールがあり、AI 自動発信は合法か で解説しています。
二重転送で遅延が増える。 固定電話から携帯へ、携帯から AI へと転送を重ねると、1 区間ごとに遅延と音質劣化が増え、発信者番号が失われる箇所も増えます。1 区間で直接届けられるなら、そうしてください。
冒頭の質問に戻ります。番号は変えるべきか? ほとんどの場合、不要です。 PBX がなければ転送設定を変える、従来型 PBX ならゲートウェイを 1 台、IP-PBX なら設定変更、通話量が本当に多いときだけ SIP トランク。電話 AI の導入で変わるのは「着信したら誰が先に出るか」というルールであって、番号でも PBX でもありません。
接続は最初の関門であって、すべてではありません。電話 AI に何ができて費用がどうなるかをまだ検討中なら、まず 電話 AI とは?2026 年完全ガイド を。ゲートウェイのポート数やトランクの同時通話数を決めるなら 電話 AI は同時に何件受けられる? を。録音・告知・発信の法的な線引きは AI 自動発信は合法か を参照してください。
よくある質問
電話 AI を導入するには電話番号を変えなければなりませんか?
ほとんどの場合、不要です。AI は既存の電話システムの横に置くもので、置き換えるものではありません。PBX がない会社は通信事業者の転送設定を変えるだけで稼働でき、従来型 PBX は VoIP ゲートウェイを 1 台追加、IP-PBX は着信を AI の SIP アドレスに転送する設定で済みます。専用回線を開設する、AI と人の着信を分ける、個別に集計したい場合だけ番号を「1 つ追加」し、今の番号はそのまま使い続けます。
従来型のアナログ PBX を電話 AI につなぐには何が必要ですか?
VoIP ゲートウェイ 1 台で足ります。片側を PBX の内線ポートか外線ポートに、もう片側をネットワークにつなぎ、アナログ信号を SIP に変換して AI に渡します。FXO ポートを使えば PBX から見て AI は内線の 1 台に、FXS ポートなら外線の 1 本になります。ポート数はピーク時の同時通話数で決め、1 ポートにつき 1 通話、1〜2 ポートの余裕を見てください。PBX の内線ロジックは変更不要です。
IP-PBX の場合、業者や情シスに何を確認すればいいですか?
3 点です。1 つ目、接続方式は SIP 登録か IP 認証か。IP 認証には固定 IP が必要です。2 つ目、双方に共通のコーデックがあるか。G.711 を優先し、Opus を予備にするのが無難です。3 つ目、ファイアウォールで SIP シグナリング(5060 または 5061)と RTP のポート範囲を開け、ルーターの SIP ALG を無効にすること。この 3 つが揃えば、通常はハードウェアを買わずに疎通できます。
営業時間外や話中のときだけ AI に出てもらうことはできますか?
できます。むしろ最も推奨する始め方です。通信事業者の「無応答転送」や「話中転送」を使えば、日中は人が優先で、誰も出られないか全回線が埋まったときだけ AI が受けます。時間帯ルールに対応した PBX や事業者プランなら、時間外と休日の転送を直接設定できます。PBX には触らず、通常は即日稼働、合わなければいつでも止められます。
AI に転送すると発信者番号は変わりますか?
通信事業者の転送を使う場合、変わることがよくあります。AI に届く番号が顧客ではなく自社の番号になり、CRM の照合ができず、記録に折り返し先が残らなくなります。対策は、IP-PBX や SIP トランク接続で元の発信者番号を保持するよう依頼する、AI を PBX の手前で出る構成にする、または会話の中で AI に折り返し先を確認させることです。契約前にベンダーへこの質問をしてください。
電話 AI の回線接続にはどれくらいの期間がかかりますか?
経験値として、転送設定のみなら通常は即日。IP-PBX の設定のみなら 1〜3 営業日で、主にファイアウォールとテストに時間がかかります。従来型 PBX にゲートウェイを足す場合は機器の手配と業者のスケジュール待ちで 1〜2 週間。SIP トランクに番号を移す場合は事業者の処理期間次第で、週単位で見てください。これは回線接続の話で、AI 側のスクリプトや知識ベースの整備は別途必要です。

